不動産保有型と株式保有型の資産管理会社は、どちらが有利かを一律に決めることはできません。
対象資産の性質、法人化にかかる移転コスト、個人段階の課税方式、法人税率という軸ごとに条件を整理し、比較検討の進め方を解説します。
この記事では、資産管理会社のうち「不動産保有型」と「株式保有型」を取り上げて比較します。
ネット上には「個人の税率は最大55%だから法人化すれば得」といった単純化された説明も見られますが、実際には対象資産の種類によって適用される税制がまったく異なり、同じ理屈が両方に当てはまるわけではありません。
この記事では、国税庁・東京都主税局の一次資料をもとに、2つの類型それぞれについて、個人段階の課税方式・法人税率・移転コストという軸で何を確認すべきかを整理します。
個別の税額試算は扱わず、あくまでスキーム類型の比較に絞って解説します。
不動産保有型と株式保有型、それぞれ何を指すか
本記事では比較の便宜上、資産管理会社のうち不動産保有型と株式保有型の2つを取り上げます。
不動産保有型は、個人が所有する賃貸不動産などの所有権や賃貸事業を法人へ移し、賃料収入を法人に帰属させる形です。
前提として、個人段階の不動産所得とは、土地や建物などの貸付け、借地権など不動産上の権利の設定・貸付け、船舶や航空機の貸付け(事業所得や譲渡所得に該当するものを除く)を指します。
この不動産の所有権や賃貸事業を法人へ移せるかどうかが検討の出発点になります。
株式保有型は、事業会社の株式など金融資産を法人に持たせ、その法人が配当や譲渡益を受け取る形です。個人が直接保有する場合と比べて、株式の受け皿を法人にするかどうかで課税の仕組みが変わってきます。
どちらの類型も、個人が保有していた資産を法人へ移し、そこから生じる収入を法人に帰属させるという発想は共通していますが、移す対象資産が不動産か株式かによって、関係する税目・税率・移転コストが大きく異なります。
この違いを踏まえずに一方の有利な条件だけを他方に当てはめてしまうと、判断を誤りやすくなります。
比較の前に押さえておきたい4つの判断軸
不動産保有型と株式保有型を比較する際は、次の4つの軸で条件を整理すると全体像がつかみやすくなります。
1つ目は、対象資産が個人段階でどう課税されているかです。
株式の譲渡益や上場株式等の配当については、総合課税とは異なる申告分離課税の仕組みが用意されていることが一次資料で確認できます。
不動産所得については、その課税方式(総合課税か否か)そのものを直接確認できる一次資料を今回の参照範囲に含めていないため、この記事では所得の範囲の確認にとどめます。
2つ目は、法人化にあたって発生する移転コストです。
不動産を法人に移す場合は登記や取得に伴う税負担が生じますが、株式を法人に移す(あるいは法人で新たに取得する)場合はこの種の移転コストの性質が異なります。
3つ目は、国税である法人税の税率です。資産管理会社は資本金1億円以下の法人であることが多く、この場合は年800万円以下の所得部分に軽減税率が適用されます。
令和7年4月1日以後に開始する事業年度では、資本金1億円以下の法人等(大法人の完全子会社等を除く)の年800万円以下の所得部分は15%、それ以外の所得部分やその他の普通法人は23.20%です。
なお、所得が年10億円を超える一定の法人では、年800万円以下の部分が17%になる注記もあります。
ここで挙げているのは国税である法人税の税率であり、これ以外の税負担も含めた法人全体の実効税率ではない点に注意が必要です。
この法人税率自体は不動産保有型・株式保有型で共通して関係してきます。
4つ目は、法人特有の追加的な制度です。株式保有型に関連する制度として、特定同族会社の留保金課税というものが存在します。
ただし本記事では、この制度の適用要件や税率区分までは確認していません。
制度が存在するという事実のみを踏まえたうえで、適用の有無は個別に確認する必要がある論点として押さえておいてください。
不動産保有型を検討する際の確認事項
不動産保有型を検討する際によく参照されるのが、個人の不動産貸付けが「事業的規模」にあたるかどうかの形式基準です。
独立家屋の貸付けであればおおむね5棟以上、貸間やアパートであれば貸与できる独立した室数がおおむね10室以上の場合に、原則として事業として取り扱われます。
いずれかを満たせば形式基準上は事業的規模とされますが、これは所得税法上、不動産所得が事業的規模かどうかを判定する基準であって、資産管理会社を設立すべきかどうかを直接決める基準ではありません。
事業的規模に満たない小規模所有であっても法人での保有を選ぶケースはあり、5棟10室基準だけで法人化の要否を判断するのは早計です。
不動産保有型を選ぶ場合に必ず織り込む必要があるのが、個人所有の不動産を法人へ移す際の移転コストです。
売買によって土地の所有権移転登記を行う場合、登録免許税は本則で1,000分の20です。
軽減税率1,000分の15は令和8年(2026年)3月31日までの時限措置として設けられていましたが、この記事の時点(2026年7月)ではすでに適用期限が到来しています。
軽減税率が延長・再設定されているかどうかはこの記事の参照資料では確認できていないため、実際に検討する際は最新の適用状況を別途確認してください。
建物の所有権移転登記(売買・競売)は本則1,000分の20で、住宅用家屋に対する1,000分の3の軽減は個人が自己の居住用として取得する場合に限られ、資産管理会社への移転には使えません。
なお、土地の相続・法人合併・共有物分割による移転登記は1,000分の4です。建物の移転登記でこの税率が定められているのは相続・法人合併の場合であり、共有物分割は含まれません。
いずれも売買による移転とは税率が異なります。
登録免許税に加えて、不動産取得税も別途発生します。
東京都の場合、標準税率は本則4%ですが、令和9年3月31日までは土地3%、住宅の新築・増築・改築は4%、それ以外は3%の軽減税率が設けられており、宅地および宅地に準ずる土地については課税標準となる価格に2分の1を乗じる特例も同じく令和9年3月31日まで適用されます。
これらの軽減税率・特例はいずれも時限措置であるため、実際に検討する時点で適用期限内かどうかを別途確認する必要があります。
移転コストを見落としたまま「法人に移せば有利」と結論づけるのは避けるべきです。
株式保有型を検討する際の確認事項
株式保有型を検討するうえでまず整理すべきは、個人が株式を保有し続けた場合の課税方式です。
個人が株式等を譲渡したときの譲渡益は、上場株式等・一般株式等(非上場株式等を含む)を問わず申告分離課税の対象となり、税率は所得税15%・住民税5%に、令和19年までの各年分について復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)が上乗せされ、実質20.315%になります。
上場株式等と一般株式等は区分して計算します。
一方、配当については扱いが分かれます。
上場株式等の配当等(大口株主等を除く)は申告分離課税を選択でき、選択した場合の税率は譲渡益と同じ20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)です。
ただし申告分離課税を選んだ配当所得は配当控除の対象外になる一方、上場株式等の譲渡損失との損益通算は可能です。
ここでいう大口株主等とは、発行済株式の総数等の3%以上に相当する株式等を有する個人を指す区分で、この基準は国税庁資料では令和5年10月1日以後の取扱いとして示されています。
大口株主等が受け取る上場株式等の配当等、および個人が非上場株式等を直接保有して受け取る配当等は総合課税の対象となり、申告分離課税や確定申告不要制度は選択できません。
非上場株式等の配当等の源泉徴収税率は20.42%(所得税および復興特別所得税、地方税なし)です。
つまり、株式保有型で「配当も譲渡益も一律20.315%」と単純化するのは誤りです。
譲渡益は上場・非上場を問わず同じ税率区分になりますが、配当は上場・非上場の別、そして大口株主等に該当するかどうかで課税方式が変わります。
個人が直接株式を保有し続ける場合と、法人を介して保有する場合とで、どの所得区分がどう扱われるかを分けて確認する必要があります。
見落としやすい追加コスト・注意点
資産管理会社を新規設立する際、消費税の免税期間を期待して資本金額を設定する検討がなされることがあります。
しかし、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上である法人は、基準期間がない設立1期目・2期目であっても納税義務は免除されません。
また、資本金が1,000万円未満であっても、「特定新規設立法人」に該当する場合は免除されない点に注意が必要です。
特定新規設立法人の判定は、判定対象者の基準期間相当期間における課税売上高が5億円を超える場合(令和6年10月1日以降は売上金額等の合計額が50億円を超える場合を含む)などの要件によるもので、株主構成や支配関係など個別の事情に左右される複雑な判定です。
「資本金を1,000万円未満にすれば免税になる」という一般化はできず、該当するかどうかは個別に確認する事項になります。
これは不動産保有型・株式保有型のどちらを選んでも共通して関わってくる論点であり、対象資産の種類にかかわらず設立段階でのチェック項目として押さえておく必要があります。
判断を進める手順
ここまでの内容を踏まえると、比較検討の進め方はおおよそ次の順序になります。
まず、法人に移そうとしている資産が不動産中心か株式中心かを明確にします。
次に、その資産を個人のまま保有し続けた場合の課税方式(不動産所得についてはこの記事で確認した範囲での所得区分の把握、株式については譲渡益・配当としての申告分離課税・総合課税の区分)を確認します。
あわせて、法人化に伴って発生する移転コスト(不動産であれば登録免許税・不動産取得税、株式であれば個人から法人への売却に伴う個人側の譲渡益課税)を洗い出します。
そのうえで、法人段階の軽減税率の適用対象になるかどうか、消費税の特定新規設立法人に該当しないかどうかを個別にチェックします。
不動産保有型・株式保有型のいずれについても、時限措置になっている軽減税率や特例が含まれているため、検討時点でその適用期限内かどうかを都度確認することも欠かせません。
この記事で整理した判断軸はあくまでスキーム類型の比較にとどまるものであり、実際の税額や個別要件の該当性は、保有資産の内容や株主構成など個々の状況によって変わってきます。