資産管理会社は個人より法人の税率が低いとは限りません。総合課税と分離課税の違い、株式・不動産の税率差、相続時の株式評価、法人維持コストを国税庁・財務省・総務省・中小企業庁の公表情報から整理し、設立の判断軸を解説します。
本記事では、資産の性質によって有利・不利が入れ替わる資産管理会社の税務構造を、①所得が総合課税か分離課税か、②所得水準、③資産規模とコストという3つの軸で整理します。総合課税の対象となる所得には法人税率との差が意味を持つ一方、株式・不動産の譲渡益は個人でも分離課税、上場株式等の配当も一定の場合には申告分離課税を選択できるため、単純に「法人の方が有利」とは言えません。どの資産をどの条件で資産管理会社に移すべきか、判断材料を数値とともに解説します。
資産管理会社とは何か
資産管理会社とは、個人が保有する株式・投資信託・不動産などの資産を、事業運営とは別の法人に集約して保有・管理する仕組みを指します。本記事では、オーナー経営者が本業の事業会社とは別に資産保有専用の法人を設立し、金融資産や賃貸不動産をその法人名義で保有するケースを想定して整理します。
資産を法人名義にすることで、役員報酬や退職金といった法人特有の制度を活用できる余地が生まれる一方、後述するように資産の種類によっては個人で保有し続けたほうが税率面で有利になる場合もあります。まず押さえておきたいのは、「法人化=節税」という一律の図式ではなく、資産の性質ごとに課税方式が異なるという点です。
税務メリットが期待できる条件
日本の所得税は、給与所得や事業所得などを合算して税率を掛ける「総合課税」を採用しており、超過累進税率(7段階、5%〜45%)が適用されます。課税所得4,000万円以上の部分には所得税の最高税率45%が課され、個人住民税は所得の多寡にかかわらず一定率の「比例税率」で標準税率10%(道府県民税4%+市町村民税6%。指定都市は道府県民税2%+市町村民税8%で合計10%は同じ)です。この2つを合わせると、総合課税の対象となる所得にかかる最高限界税率の合計は45%+10%=55%になります(これは課税所得の一定額を超えた部分に適用される限界税率の合計であり、復興特別所得税は含みません。また納税者全体の平均的な負担率を示すものではない点に注意が必要です)。
これに対し、法人税は資本金1億円以下の中小法人等であれば、所得のうち年800万円以下の部分に軽減税率15%(令和9年3月31日までに開始する事業年度に適用。前3事業年度の平均所得が15億円を超える法人は17%)が適用され、それを超える部分は通常税率23.2%となります。
この税率差を踏まえ、総合課税の対象となる所得(給与所得・事業所得など)については、次のような対応で税負担の調整余地が生まれる場合があります。
- 所得の分散: 役員報酬を通じて資産管理会社から所得を受け取ることで、個人の累進課税と法人税の税率差を利用できる場合があります。ただし役員報酬は法人の損金に算入するために定期同額給与など税務上の要件を満たす必要があります。
- 退職金・社宅制度の活用: 退職金は給与所得より税負担が軽くなる仕組みがあり、社宅の家賃を法人の損金に算入できる場合があります。いずれも契約内容や支給ルールが要件を満たすことが前提です。
- 経費として認められる範囲: 法人は個人事業と比べて経費として認められる範囲が広がる場合があります。
- 減価償却による課税の繰り延べ: 固定資産の取得価額を耐用年数にわたって分割費用計上する減価償却の仕組みにより、帳簿上の利益を圧縮し、法人税の負担を期間で調整できる場合があります。
これらはいずれも「総合課税の対象となる所得」に関する話であり、次章で扱う金融資産・不動産の譲渡益(分離課税)や、申告分離課税を選択した上場株式等の配当には、そのままでは当てはまりません。
法人化が不利になる条件
ここが本記事で最も強調したいポイントです。金融資産の譲渡益や不動産の譲渡益は、個人の場合「総合課税」ではなく「申告分離課税」という別建ての税率が適用されます。また上場株式等の配当は、一定の場合に申告分離課税を選択できます。分離課税が適用される所得については、個人の最高税率55%と法人税率を単純に比較することはできません。
株式・投資信託などの金融資産
上場株式等・一般株式等の譲渡益は、他の所得と区分して税額を計算する申告分離課税の対象で、税率は所得税15%(復興特別所得税を加えると実質15.315%)+住民税5%=合計20.315%です。
上場株式等の配当についても、一定の大口株主等が受けるものを除き、総合課税に代えて申告分離課税を選択でき、その場合の税率は同じく20.315%です。ただし発行済株式の3%以上を保有する大口株主等(令和5年10月1日以後は、同族会社を通じた間接保有を含めて3%以上となる場合も対象)が受ける配当は総合課税の対象で、分離課税を選べません。加えて、申告する配当等は全額について総合課税か分離課税かのいずれかを選択する必要があり、銘柄ごとに選択方式を変えることはできない点にも注意が必要です。
一方、法人が内国法人から受け取る配当等は「受取配当等の益金不算入」制度により法人税の課税対象から一定割合が除かれますが、益金不算入の割合は保有区分によって異なります。完全子法人株式等(株式の全部を保有)は全額、関連法人株式等(持株割合3分の1超)は負債利子控除後の金額、その他株式等(持株割合5%超3分の1以下)は5割、非支配目的株式等(発行済株式の5%以下の保有)は2割と区分されており、一律非課税ではありません。さらに株式等の譲渡益そのものはこの制度の対象外で、法人税が課税されます。
個人の申告分離課税20.315%と法人税を比べる際は、比較の基準を揃える必要があります。中小法人は所得800万円以下の部分に軽減税率15%、それを超える部分に通常税率23.2%が適用されますが、これは法人税単体の税率です。国・地方を合わせた法人実効税率(標準税率適用・大法人ベース、年800万円超の所得部分)でみると、平成30年度(2018年度)以降令和8年3月31日以前に開始する事業年度は29.74%、令和8年4月1日以後に開始する事業年度は防衛特別法人税(法人税額から500万円を控除した金額に税率4%)を含めて30.64%です。中小法人単体の総合実効税率について確定した単一の数値はここでは示しませんが、少なくとも年800万円超の所得部分には23.2%の法人税に地方税等が上乗せされるため、法人税率15%・23.2%だけで個人の20.315%と大小を比較することはできません。
それでも、金融資産の譲渡益・配当については、個人で保有したまま分離課税20.315%で完結させたほうが、法人経由で保有し地方税等も含めた税負担を負うより有利になり得るケースがあります。資産管理会社に移すことで自動的に有利になるわけではない点に注意が必要です。
不動産
不動産の譲渡益も分離課税ですが、保有期間によって税率が大きく異なります。譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える「長期譲渡所得」は税率20.315%(所得税15.315%+住民税5%)ですが、5年以下の「短期譲渡所得」は税率39.63%(所得税30.63%+住民税9%)と、ほぼ倍近い水準になります。
賃貸中の家賃収入は総合課税・累進税率の対象になる一方、売却時の譲渡益は分離課税で保有期間により税率が変わるため、「不動産は法人化したほうが有利」と一律に判断することはできません。特に長期保有を前提とした不動産については、個人のまま20.315%の分離課税で売却したほうが、法人経由で保有・売却し地方税等も含めた負担を負うより税負担が軽くなる場合があります。
相続・事業承継における論点
資産管理会社の株式(取引相場のない株式)を相続・贈与する場合、財産評価基本通達に基づく評価方式が用いられます。会社規模によって、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は両者の併用方式で評価され、同族株主以外の株主が取得する株式は会社規模にかかわらず配当還元方式(年配当金額を一定利率10%で還元する方式)で評価されます。会社規模の判定は「総資産価額」「従業員数」「取引金額」の3基準で行われます。
資産管理会社化によって株式評価額が変動する可能性はありますが、その効果は資産構成や会社規模の判定結果によって個別に異なり、一律の圧縮効果を約束するものではありません。
また、非上場株式等の相続税の納税を猶予する法人版事業承継税制は、資産管理会社の株式評価とは別制度です。特例措置の対象期間は平成30年1月1日から令和9年12月31日までの10年間(期限のない一般措置も別途存在)で、いずれも中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の認定を受けた非上場会社の株式であることなど、一定の要件を満たす必要があります。資産管理会社を設立したこと自体が、この納税猶予の適用を自動的に保証するわけではありません。
コストと運用上の注意点
法人には、事業年度の所得の有無にかかわらず毎年発生する法人住民税の均等割があります。資本金等の額1,000万円以下・従業者数50人以下の法人であれば、標準税率で道府県民税2万円+市町村民税5万円=合計7万円が目安となり、赤字決算であっても納税義務が生じます(都道府県によっては超過税率で上乗せがある地域もあります)。
設立費用についても、株式会社は20万円程度、合同会社は6万円程度が目安とされています。運用資産の規模が小さいうちは、こうした固定費が運用益に対して相対的に重くなる可能性がある点も、法人化の判断材料に含める必要があります。
まとめ
資産管理会社を活用した財務戦略を検討する際は、次の軸で整理することが重要です。
- 対象資産が総合課税(給与・事業所得等)か、分離課税の対象となる株式譲渡益・不動産譲渡益か、あるいは一定の場合に分離課税を選択できる配当かを区別する
- 分離課税の資産については、個人の税率(20.315%、不動産短期は39.63%)と法人の税率構造(軽減税率15%・通常税率23.2%、これに地方税等が別途課される点)を保有期間・所得水準ごとに比較する
- 上場株式等の配当は一定の大口株主等を除いて分離課税を選択できるが、選択は配当等全体に対して行う点に留意する
- 相続・承継を見据える場合は、株式評価方式と事業承継税制の適用要件を別々に確認する
- 均等割や設立費用など、法人を維持すること自体のコストを織り込む
「資産管理会社を作れば税負担が下がる」という一律の結論は成立せず、資産の種類・保有期間・所得水準の組み合わせによって有利不利は変わります。個別の有利不利は資産構成・所得水準により異なるため、税理士等の専門家への相談を推奨します。